増井 俊明先生(三代目校長)
いつも思い出す田無高校生の制服姿

 今年七月イギリスに旅行したとき、中世の面影を残すイングランド南西部の街チェスターを訪れた。周囲が、すっかり城壁に囲まれている。中国大陸やヨーロッパ大陸に旅行したときにもこのような城壁はよく見かけた。城壁を歩くと、さまざまな民族が征服したりされたりしながら入り乱れて、怒濤のように動いてきた歴史の存在を思い出させる。

 ところが、日本の奈良や平安の都にはこのような城壁はない。家屋もおおむね開放的である。イギリスは日本と同じように島国ではあるが、私の受けた印象は、きわめて大陸的であり、ドイツやオーストリー、フランスやイタリアとあまり変わらないのである。

 おそらくイギリスは大陸の文化と地続きであったのに対し、日本は治乱興亡目まぐるしい大陸の文化とは異なる日本独自の文化を形成してきたのではないか、などと考えながら旅してきた。

 私が、田無にお世話になったのはもう十年以上も昔のことである。それでも着任式の朝、はじめてブルーのストライプの入ったYシャツを制服として着用する生徒たちの姿に接したときの感動は今でもはっきり覚えている。明るくて気品があった。若者らしい清々しさがあった。そしてなかなかユニーク。創立間もない高校ではあるが、すでに立派な伝統が根づきつつあるのだなと実感したのである。

 当時、教育界では、二十一世紀を目前にして、高等学校の理想像をどのように描くかについて、百家争鳴各方面からさまざまな意見が出されていた。田無でもパソコン導入について、激しい反対があり、何度も会議を開いたことが思い出される。十周年記念行事についても挙行するかどうかまで議論百出であった。

 その後、中教審や生涯審など国の審議会の委員をいろいろ引き受けることになるのだが、私はいつも田無高校生と過ごした体験の中に、教育のあるべき姿を求めつつ、日本の高校教育の理想像を探っていたように思う。